2020.05.01 すべてはここから
転勤ブルーになっていた。カルチャーショックに近い状態。
葬儀なんてどこも同じだと思っていたのに、全く別物だった。
土地柄が変わるとこんなにもやり方が違うのか。
その土地では、お通夜をし、朝から火葬をして、それからお寺でご葬儀をおこなう。
いわゆる骨葬。
はじめはその習慣に頭がついていかなかった。
しかも、その土地の人は、「そこの道を左に曲がって」とは言わず、
「そこの道を東に曲がって」と指示してくる。
ダイソーで方位磁石を買わされた。
これも土地柄か。
しかしさすが私だった。
1ヶ月もすれば「そこの道を東に曲がって、次を南ですね」。
さすがである。
骨葬にも慣れ、土地柄にも慣れてしまった。
方言まで使ってしまう始末。
おばあちゃんの姉妹。妹さんを亡くされたおばあちゃんと出会った。
担当になったというより出会ったが正しいように思う。
二人暮らしだったこともありすごい落ち込みよう。
心配だった。
葬儀が終わってからも、ちょくちょく顔を出すようにした。
「おばあちゃんまた来たよー」「おばあちゃんアイス買って来たよー」
「おばあちゃん元気してるねー」行くのが楽しみになっていた。
おばあちゃんも最初のうちは元気がなかったが、そのうち「あら、いらっしゃい」と迎えいれてくれた。
「あんた、タバコ吸う?吸っていきな」とよくタバコをすすめてきた。
おばあちゃんは超ヘビー級だった。
タバコは長生きに影響ないのかとさえ疑った。
たわいもない話をし、お土産をもっていったり、もらったり。
楽しかった。
数ヶ月が経っていた。
季節も変わり始めた頃、一件の依頼。
私は事務所に帰って自分の席に座った。
黒板に何か見覚えのある名前。おばあちゃんの名前が書いてあった。
すぐさま立ち上がりおばあちゃんに会いに行った。
綺麗な顔で眠っていた。
「なんしよっとな」
それから言葉は出なかった。
お通夜の時間。
私は思い出のタバコを買いに行き、おばあちゃんにあげた。
一人の女性が私のところに寄ってきた。
「すみません、もしかしていつも来てくれていた方ですか?」
私はうなずくことしか出来なかった。
その女性はもう一歩私に近づき、私の手を握った。
それと同時に涙があふれていた。
「ありがとうございました」
その女性は震えながらそう言うとしゃがみこんだ。
肩を震わせただ泣いていた。ただ、泣いていた。
遠方に暮らす娘さんだった。おばあちゃんは子供はいないと言っていた。
葬儀が終わり、私はそのタバコを吸った。
ふーっと吐いたタバコの煙が、すーっと消えていった。
【10へ続く】