2020.05.03 すべてはここから
真夜中の午前2時過ぎ。1件の電話が鳴った。
「葬儀の相談をさせてください。」
変わった電話だった。
真夜中に相談ってなんだろうと思いはしたが、住所を聞き走った。
自宅に着くと若い夫婦が待っていた。
どのようなご相談でしょうか?恐る恐る尋ねた。
ご主人が静かに口を開いた。
「葬儀をおこなって欲しいんです。」そう言って下を向いた。
・・・。沈黙が続いたので私から切り出した。
どなたのでしょうか?
また沈黙が続いた。しばらくし奥さんが立ち上がった。
こちらへどうぞ、別の部屋に呼ばれた。
そこには小さな男の子と女の子が二人並んで寝ていた。
奥さんは女の子の頭を撫でながら「この子の葬儀をしてやってください」と小さく言った。
私はようやく状況がわかってきた。
聞きたいことは沢山あったが、ひとつずつ絡まった紐を解いていくようにゆっくり聞いていった。
亡くなっていたのはまだ5歳の女の子だった。
昼間行方がわからなくなり、近所の方たちも手伝いみんなで探した。
探しても探しても見つからない。
誰かが警察に連絡した直後だった。
お父さんは突然池に飛び込み潜った。
まわりのみんなはあまりの突然の行動に驚いた。
みんなが、池のまわりにあつまり息をのんだ。
その瞬間、お父さんが女の子を抱きかかえ水面に飛びだした。
救急車が到着したが、もう息を引き取った後だった。
どうしてお父さんが池に飛び込んだのか、まわりのみんなはわからなかった。
池に何か形跡があったわけでもない。何か落ちていたわけでもない。
ただ、池からわが子を感じた。呼んでいた。
だから、お父さんは飛び込んだのだった。
二人の時間はその日の昼から止まっていた。
1ヶ月が経っても、2ヶ月が経っても、半年が経っても女の子の部屋はあのときのままだった。
二人の時間がまた動き出すのか、だれにもわからなかった。
【12へ続く】