2020.04.28 すべてはここから
葬儀の依頼が入った。
研修の身だった私だが、おじ様たちは何の迷いもなく躊躇もなく私に現場へ行かせた。
研修の私に一日も早く覚えさせようとしたのかというと、全く違った。
ただただ皆腰が重かった。何かあれば皆こぞって私の獲り合いだった。
いい小鳥ができてみな楽しそうだった。
私はみなにいいように使われて悔しかったかというと、またそれも違っていた。
すごく楽しかった。毎日が楽しくてしょうがなかった。
毎日が新鮮で、味わったことのないような毎日。居場所を見つけた感じだった。
依頼先は自宅だった。
自宅で亡くなり数日経っていた。経っていることを現場で知った。
もっと早く知りたかった。
心の準備が・・・。
遺体を納体袋に入れて斎場まで連れて行かないといけなかった。
遺体との対面。マジか。心で連呼した。
紫より濃い紫。黒にちかい。
こんなにも人間は色が変わるのか。
その瞬間、襲ってくる激臭。
なんだ、なんなんだ。すごい。
私が頭部の方を持ち上げた。次の瞬間、頭を離しそうになった。
すごい虫の数・・・。
耳から鼻から口から髪の毛の隙間から。すごいすごい。心で連呼連呼。
納体袋に納めてチャックをし、ふう~と息を吐いた。
帰りの車中、一人で運転していた。
静まり返っている車中。なんとなくラジオをつけた。
「本日未明、○○町にて男性の遺体が発見されました。遺体は数日経っている模様。身元は~」
あなたのこと言ってますよ。
遺体に声をかけた。
なにも返事はかえってこなかった。
私は、葬儀の仕事のとり子になっていた。
どんな状況、どんな依頼内容でも現場へ向かった。
あっという間に研修が終わった。
明日からまたあのモンスターのところへと帰る。
そう考えた瞬間怖くなった。
人間は生きている方が怖い。
【7へ続く】