2020.05.16 訪問介護
今日は、しめ鯖が食べたい。
買って来てくれ。
今日は、すき焼きが食べたい。
作ってくれ。
ソラ豆が食べたい。
ソラ豆を4分チンしてくれ。
ソフトバンクの試合が観たい。
テレビを買いに行こう。
さすがは頑固親父・・・。
自宅での生活にも慣れてきて、好き放題のわがままっぷり。
徹底的に付き合うよ。
私は覚悟してるけんね。
さあ~、今日のご注文はなんでしょうか?
「なあ~、もう死に近づきよるばい。」
「今日は後でまた顔出してくれんかね?」
「食べたいのに、食べきらんとが悔しか」
おいおいどうした、おやっさん。
弱音なんて似合わないよ。
日に日に痩せていくおやっさん。
足を何度も何度もさすった。
「ありがとな。助かった。おやすみ」
「ああ、また明日ね。おやすみなさい」
頑張れ。頑張れ。おやっさん頑張れ。
「ねえ、おやっさん、おやっさんの意地はかっこいいいけど、
病院のみんなは準備万全で待ってるよ。病院に帰ろうか?」
「もう少しだけ、もう少しだけ、意地を張らせてくれんか。こういう生き方なんや。」
「わかったよ」
「おい、息が苦しい。救急車呼んでくれんか。」
「え?大丈夫?苦しいん?」
「苦しい。」
「わかった。すぐに呼ぶ。」
病院のベッドの上、
「おやっさん、久し振り。」
娘さんが顔を出した。
「満足したね?」
「ああ、満足、満足やった」
「あんたには世話になったな。」
「なんも気にせんでよかよ。私も楽しかった。」
雨の日が続いた。降ったり、止んだり。
「はい、もしもし、どうかしました?」
「父が、今朝、亡くなりました。」
声が出なかった。
病院のベッドの上、
「またビールが飲みたい」
そう言っているようだった。
「父は、認知症検査が先日あったとき、何か書いてくれと言われてこう書いたそうです。」
・・・人と人とのふれあい・・・
涙をこらえきれなかった。
「あの父が、私にこんなことを言ったんですよ。父らしくないんですけど」
「そばにおってくれ」
街中、蝉が泣き始めた。